実は“違法”な全米のマリファナ【アメリカのリアルな大麻事情】

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来年1月よりカリフォルニアで本格的に解禁されるマリファナ。日本では今でも厳しく規制されているが、全米各州で合法化が相次いでいる。だが、そこには超大国が抱える“社会的断層”が隠されていた。在米ライターが迫る!

◆カリフォルニアの合法化決定で全米のトレンドは大麻解禁へ

「まったく! マリファナのせいで老後計画がめちゃくちゃよ」

 サンタモニカの友人を久々に訪ねると、彼女はこう言ってため息をついた。14年前に資産形成の目的で郊外に購入した宅地が、この1年ですっぽりとマリファナ農場に囲まれてしまったという。見える景色は、大麻、大麻、大麻。値上がり後に売却する算段だったのに、「あんな宅地、買う人なんていないわ!」。

 あちゃー、逆ビンゴ……。

 確かにこの頃、地元紙は毎日のように大麻ビジネスを報道している。私は、’01年にロサンゼルスに移住したのだけれど、こんなマリファナ騒ぎは初めてだ。でも、近しい人に影響が及ぶほどのこととは思っていなかった。

 いったい、アメリカのマリファナはどこに向かおうとしているのか? それを探るべく、現地の様子をリポートしたい――。

 昨年11月の住民投票で、ロサンゼルスを含むカリフォルニア州は“嗜好用大麻”の合法化を選択した。マリファナが、実質的に解禁されるのは来年元日。解禁を目前に、今、当地では大麻ビジネスが水面下でうねり、蠢いている。

 同州は、’96年、全米に先駆けて“医療用大麻”を合法化した。その後各州が続き、現在アメリカで医療用大麻を認可しているのは28州と、首都であるワシントンDCで、国土の半分以上を占める。

 一方、嗜好用となると、さすがに解禁区はグンと減って8州とワシントンDCのみ。だが、この国の文化を常にリードしてきたカリフォルニアが嗜好用大麻に踏み切ることで、「トレンドは解禁にあり」と多くの人は見る。

◆実は“違法”な全米のマリファナ

 日本では、アメリカ=マリファナのイメージがあるが、実は、この国でマリファナは“違法”である。事実、’01~’10年までのマリファナ関連逮捕者は820万人に上る(「全米市民自由連合」調べ)。

「解禁なのに逮捕?」と不思議に思われるだろうが、アメリカには、大別して2つの法律が存在する。連邦政府が定めた全米に通じる“連邦法”と、各州が独自に作る“州法”だ。そして、マリファナは連邦法の規制物質法(麻薬取締局管轄)で、違法と定められているのだ。そのため、さまざまな矛盾が起きてしまうのである。

 例えば、大麻ビジネスに関わる人々が頭を抱えているのがお金。サンフランシスコの匿名希望のマリファナ薬局(ディスペンサリー)の店主はこう嘆く。

「ウチの去年の売り上げは400万ドル(約4.4億円)。来年から嗜好用も扱うからもっと儲かるはず。でも、銀行口座を開けないので、いつも現金の扱いに神経をすり減らしてしまうんだ」

 連邦法は、銀行など金融機関が違法ビジネスと取引することを禁じている。この点、いまだにマリファナは日陰の身なのである。

 地方行政も時に及び腰になる。カリフォルニア州では、年末までに嗜好用大麻の事業者にライセンスを与える予定だった。しかし、ここにきて一大市場のロサンゼルス市が、「ライセンスではなく承諾証を発行する」と言い出した。

 大麻法の研究グループ「ロサンゼルス・カナビス・タスクフォース」のエリザベス・アッシュフォードさんが解説する。

「市がライセンスを発行したがらないのは、連邦法を恐れているからです。事業者にとって、承諾証のみでのビジネス展開は非常に危険。市は、州法にしたがい免許を出すべきなのです」

 連邦法と州法の狭間で揺れる市政。大麻ビジネスは、栽培、流通、販売、検査など多岐にわたる。果たして、来年1月1日にマリファナは本当に解禁されるのか? 危ぶむ声もチラホラなカリフォルニアなのである。

 そのカリフォルニアと同時期に、嗜好用大麻の合法化を可決、ひと足先んじて7月に施行したネバダ州でも騒動が起きている。

 同州は、嗜好用大麻の流通に関し、諸規定を定めたが、解禁日までに規定をクリアした業者はゼロ。供給がストップし、州政府が「販売店の一時閉鎖もやむなし」の緊急宣言を発した。現在、各ストアは、過去に医療用として仕入れた在庫を売って凌いでいる。だが、在住者に加え、州内最大の都市、ラスベガスに殺到した観光客の需要には追いつかず、品薄、品切れの混乱が続いている。

◆デンバーは清く正しいマリファナ・シティ

 他州のゴタゴタをよそに、大繁盛を享受しているのがコロラド州だ。この州では、’00年に医療用大麻を、’12年に全米で初めて嗜好用大麻の合法化を可決して以来、行政が組織的に大麻ツーリズムを推し進めてきた。その結果、’16年度のマリファナ関連売り上げ総額は、実に14億ドル(1540億円)に達する。

 特に州都デンバーでは、マリファナ薬局とストアの軒数が、スターバックスとマクドナルドをあわせた数を上回るといわれる。そこで、デンバーを訪ねると――。

 デンバー市街の中心、ユニオン・ステーションを一歩外に出れば、そこはすでにマリファナ・シティだった。マリファナ薬局やストアを示す“緑十字”の看板があちこちに見える。ネイルサロンの隣にも、コンビニの地下にも、ファッションビルの中にも、緑十字が堂々と、いっそ“清く正しく”といった風情で掲げられている。

◆日本人旅行者が知るべきルール

 その様子に、従来マリファナが持っていたアウトローで暴力的、ラスタなイメージはない。それに、マリファナの代わりに“カナビス”と表記する店も珍しくない。カナビスは大麻草の学名だが、マリファナの悪なイメージを払拭するために、この言葉を使う業界人が多いのだ。まあ、ホステスが店替えで心機一転、源氏名を変えるようなもん。

 清く正しいイメージは店内も同様だ。広い空間にシンプルな内装の店もあれば、モダンアートを配したポップ系や、高級テーラーのような重厚な構えの店など、それぞれ創意に満ちている。

 例えば、“大麻界のアップルストア”を標榜する「ユーフローラ」では、乾燥大麻を透明ポットに入れて陳列。客はレンズで拡大して見たり、匂いを嗅いだりできる。さらに、乾燥大麻の横にはiPadが置かれ、品種や特徴、効用を検索できるようになっている。

 また、隣街、ボルダーの「ザ・ファーム」は農家の納屋を改造した店舗で、ロハスと高品質の地産大麻がウリ。高品質を掲げるだけに値段は高めで、デンバー周辺のジョイント(乾燥大麻を煙草のように巻いたもの)の相場が1本3~5ドルのところ、ここでは7ドル前後で売っている。

 私は、「ザ・ファーム」でジョイントを買ったのだけれど、パッケージには品種や内包成分、含有率が処方箋のように記載されていて、その薬のような“信頼感”を前面に押し出した新手の商法には、思わず唸ってしまった。

 こうした店には、日本人旅行者も入店できるし、購入もできる。ただし、法律を知らないと逮捕なんてことになりかねないので、以下に注意事項を書いておこう。

①入店、購入できるのは21歳以上。入店時は、パスポートなど身分証明書を提示する。

②購入は現金のみ。

③一度に購入、所持できるのは1オンス(約28.35g)まで。

④未成年者に譲渡、転売しない。

⑤旅行者が入店できるのはストアのみ、薬局には現地医師発行の推薦状がないと入れない。

⑥車内で吸引、服用しない。マリファナの影響下で運転しない。

⑦他州に持ち込まない。

 そして肝心なのが、「マリファナ薬局・ストア、道、空港、公園、ホテル、飲食店など、公共の場で吸引、服用しない」こと。となると、現地在住の友人知人がいない限りマリファナを吸えない理屈になるが、世の中どこでも抜け道はある。キーワードは“私有地”だ。

 「ダメ。ゼッタイ。」の日本のマリファナ事情とは彼我の差があるものの、アメリカにも相応の規律があることがおわかりいただけただろうか?

◆アメリカの世論は賛成6割、反対4割

 では、アメリカ国民は大麻解禁をどう捉えているのか?

 米企業ギャラップが昨年10月に実施した世論調査によれば、解禁賛成が60%、反対が40%。これは、調査を始めた’69年(賛成12%、反対88%)以来もっとも賛成の割合が高い数値で、この傾向は’00年以降続いているという。

 賛成派の代表的な理由は、最近の研究で、マリファナの中毒性や害は酒や煙草より少ないともいわれるのに、禁じるのは不合理で人権に関わるというもの。

 したがって、マリファナによる逮捕や投獄こそ人権蹂躙であり、かつカネの無駄と賛成派は考える。

 加えて、法制下で解禁すれば闇市場を縮小できるし、マリファナ税も入って一挙両得という意見も少なくない。

 逆に反対派は、マリファナは心身にとって有害で、犯罪や社会不穏を招くと主張する。全米規模の反対派団体「スマート・アプローチ・トゥ・マリファナ」の創設者で、故ケネディ大統領の甥、パトリック・ケネディは、昨夏の集会で以下のように力説した。

「マリファナは成人に危険であるばかりか、子供たちに悪影響を及ぼす。また、中毒のために貧困層をより貧困に導いてしまう」

 こうした人々の多くは、マリファナが“ゲートウェイ・ドラッグ”といって、より有害な薬物への入り口の役割を果たすという考えも持っている。

 トランプ政権の司法長官、ジェフ・セッションズも反対派の一人だ。長官は、「良民はマリファナを吸わない」と公言してはばからず、「大麻規制緩和に傾く世論に賛同し、法律を変えるべからず」と、議会に圧力をかけ続けている。

 オバマ大統領はどちらかといえばマリファナに寛大で、各州の判断に委ねる政策を採った。トランプ大統領は就任後、明確な立場を表明していないが、司法長官の他にペンス副大統領もマリファナ嫌いなだけに、解禁トレンドの後退を危惧する推進派は多い。

 私個人は、現代医学では治癒しない病を患う患者に、厳格な法の下で医療用大麻を認めることに賛成だ。それに、もっと研究の門戸を広げるべきだとも思う。

 反対に、嗜好用については、科学的研究がより進んでからで遅くないと思う。この世に嗜好品は、他にもいっぱいあるではないか。

 デンバーの目抜き通りで、マリファナ・ストアに吸い込まれるように次々と入っていく客の波を見ながら、そして、ぷわ~んと漂う野草のようなスカンクのようなマリファナ独特の匂いを嗅ぎながら、そんなことを強く思った。

 さて、どうなるアメリカのマリファナ解禁?

取材・文・撮影/柳田由紀子、図版/ミューズグラフィック、写真/アフロ

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  • 10/13 15:53
  • 日刊SPA!

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この記事のみんなのコメント

8
  • トリトン

    10/13 22:37

    アメリカが麻薬を合法化したら日本に圧力をかけて売れと言ってきたら、日本政府は受けるだろうな日本のたばこが有るのに外国のタバコを押し付けておいて、禁煙だからと言って手のひら返し、それで政府は麻薬解放う⚪⚪に良いとか言って流行るのかな。アメリカに脅されたらごもっともの政府だもんな、美味しい日本の米があるのにアメリカの米を買うアホだからな。

  • 連邦法では禁止なんだよね。

  • 玉葱

    10/13 20:45

    危ないなぁ…。経済活性化には、"解禁"って言葉が特効薬だろうけど…。日本のパチンコみたいな感覚に似てるのかな…?依存症になるもならないも本人次第。所得格差がとんでもなく開きそうだし、失業者ももっと溢れそうな気がする…。

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