年内婚約 2017:“逆算”したら完全アウト。結婚相手を28歳でロックオンすべき理由

―私、年内に婚約するー

都心で煌びやかな生活を送る麻里・28歳は、ある日突然、こんな決意を固めた。

というのも、麻里は気づいてしまったのだ。

“女は30歳過ぎてからが魅力的?年齢を重ねるほど、色気が増す?”

女の市場価値を冷静に受け止めれば、20代で結婚した方が絶対お得に決まっている。

掲げた目標は“今年中にプロポーズされる”こと。本気を出した女のリアルな婚活奮闘が、今、はじまる。


月曜日のランチタイム。

青山のオフィスの外に広がる真夏の青空に心を馳せながら、Outlookに届いた一通のメールを開くと、麻里はつい「うっ...」と呻き声を漏らした。

親友のみゆきから、今週の二人のスケジュールのリマインダーメールが送られてきたのだ。

平日は商社マン、医者、外銀、慶応幼稚舎グループとのお食事会が4件。週末は経営者のホームパーティと葉山のヨットクルーズへ赴く予定が2件。

さらにバッファ候補として、野球選手とテレビ局員との深夜スタートの飲み会が2件、ズラリと並んでいる。

みゆきは日時と相手の職業、開催場所を簡単な表にまとめ、メールに貼り付けていた。

これは流石に予定を詰め込み過ぎではないかと一瞬怯むが、しかし、そんなことを言ってる場合ではない。何を隠そう、二人は目下、結婚相手探しに大奮闘中なのである。

―今週は慌ただしくなるかとは思いますが、優良案件が揃いましたね。夏風邪など召されないよう、気合いを入れて乗り切りましょうー

文末のみゆきの一言に、麻里はクスリと微笑む。

社内メールのやりとりは、社内メールらしい文面で送り合うのが二人のルールだ。

―やっぱり、持つべきものは女友達だわ...。

そう、怯んでいる余裕なんかない。こうして協力的な友人とせっせと力を合わせ、人脈をフル稼働して出会いの場を設けられることに感謝しなければならないのだ。

だって麻里は、自分自身で“年内婚約”を決意したのだから。

麻里が婚活に励む理由は、ダメ男に費やした過去が原因...?

いわゆる“港区女子”的な女が、貴重な3年間を捧げてしまった「ヤバい男」


麻里は某外資系メーカーの社長秘書をしている。

名を言えば誰もが「へぇ」とそれなりに感心してくれる、名の通った高級食器ブランドだ。

都内の有名女子大を卒業後、麻里は意気揚々と大手人材派遣会社に入社したが、営業職の過酷さに1年で音を上げた。

そして、そこらじゅうの人脈やコネを必死に駆使して辿り着いたこの転職先は、何とも居心地の良い、この役職である。

ボスである社長は温和な中年男性で、変な意味でなく、麻里を可愛がってくれる。仕事量もやりがいもそこそこ、何より“社長秘書”という響きは魅力的なうえ、お給料も悪くない。

そんな恵まれた環境に身を置いていたから、麻里の社会人生活は学生時代とさほど変わりのない、気楽で浮世離れしたものだった。いわゆる“港区女子”的なキラキラ&チヤホヤの20代である。

自分で言うのも何だが、容姿にもかなり恵まれている方である。小学生の頃は原宿でスカウトされて、ちょっとしたバラエティ番組に出演したこともある。決して売れたわけではないが、その芸能事務所には高校受験前まで一応籍を置いていた。

そんなこんなで、麻里は昔から苦労というものをしたことがない。よって、自分の人生は勝手にフワフワと良い方向に流れていくものだと、根拠もなく信じていたのである。


そんな麻里が突然結婚に焦り始めたのは、数ヵ月前、元彼のサトシと破局を迎えたときだった。

―今まで、どこで誰と飲んでたんだよ?!―

サトシとは何だかんだと3年以上関係が続いたが、末期の頃は、半同棲していた六本木の高級低層マンションで顔を合わせるたびに罵声が飛んだ。

―そういうサトシこそ、昨日は朝まで帰らなかったの、知ってるんだからね!!―

サトシは10も年上のゲームデザイナーで、スマホゲームをいくつかヒットさせたことで財を成した天才肌的な経営者である。

年甲斐なく感情的でワガママで、束縛屋のマザコンで、しかも浮気癖があり、バツイチだった。あとから冷静になれば、単にヤバい男だ。

しかし、うんと良く言えば、素直で情熱的な恋人だった。だから仲良しのときはこれ以上ないほどラブラブで、彼ほど麻里に労力と時間を費やし、贅沢をさせてくれた男はいない。

それに、誰もがクールぶっているこの東京砂漠で、あれほど感情を垂れ流し、喜怒哀楽を全力でぶつけてくる男に、おかしな情を持っていたのも事実である。

だが二人の間には、とにかくケンカが絶えなかった。

ただのケンカではない。暴力だけはなかったが、部屋内の様々なモノが破壊され、130平米の広々とした2LDKの部屋だったにもかかわらず、近隣の住人から騒音の苦情が来るレベルのものだ。

しかも原因はいつも、全く思い出せないほど些細な、どうでもいいことだった。

28歳独身。余裕あり気な女が危機感を持った理由は...?

“逆算”すると、28歳でのんびりしているヒマはない


サトシとの最後のケンカは、彼が麻里のスマホを盗み見し、男友達とのLINEのやりとりに激昂したのが原因だ。

大ケンカの最中、麻里はつい勢い余って、彼の大切なマンガが綺麗に揃えられた本棚を思い切り蹴飛ばしてしまった。

大きな本棚は、麻里の目の前をスローモーションでゆっくりと傾いていくように見えたが、それは床が抜けそうなほどの爆音と振動立てて、激しく倒れた。

無数の本を散らしただけでなく、飾ってあった何かの模型や硝子細工も飛び散ったし、壁も傷ついていた。

いい大人の女があんな風に破壊的に暴れて、我に返ったときの虚しさと言ったら、きっと経験者にしか分からないだろう。

床に無残に散らばった「ジョジョの奇妙な冒険」や「進撃の巨人」などのキャラクターたちが、八方睨みで冷たい視線を投げているように見えた光景は、今でも瞼に焼きついている。

腐れ縁のサトシへの情が消えたわけではなかったが、麻里はそのとき、まさに目が覚めるように「こんなフェーズは、そろそろ卒業だ」と悟ったのだ。


そうして数年ぶりに晴れてフリーになった麻里は、しかし、あることに気づいた。

周りの友人が、ポツポツと結婚や婚約し始めたり、数年前とは見違えるような堅実な男と上品顔で付き合っているのだ。

有名人好きでスポーツ選手や芸能人とばかり飲んでいた女は、地方出身の童顔の開業医と。とにかく金持ち好きで、既婚未婚・顔面偏差値を問わずに財力のある男に尽くしていた女は、港区出身の銀行員と。

「だって30過ぎて、婚活に必死になりたくないじゃない?」

知恵の働く女たちは皆口を揃えてそんなことを言い、30歳をリミットとして“逆算”すると、28歳で結婚相手をロックオンする必要があると教えてくれた。

「30歳までに結婚するんだったら、最短で付き合って半年、式の準備に半年かかるのよ。そう考えたら、29歳までに婚約しなきゃ間に合わないじゃない」

その理論は、麻里にとってかなりの納得感があった。

サトシのような破壊的な男に貴重な3年もの時間を費やしたのだから、もう間違いを犯す時間は残されていない。12月に迫る29歳の誕生日までに、どうにか結婚相手を見つけ、婚約しなければならない。

今までのように、将来を望めぬ“港区おじさん”的な人種とばかりツルんでいたら、数年後には浦島太郎状態になると言うのだ。

その理論は麻里にとってかなりの納得感があった。サトシのような破壊的な男に貴重な3年もの時間を費やしてしまったのだから、もう間違いを犯す時間は残されていないのである。

―まぁ、時間はまだ 半年近くもあるもの。私なら楽勝でしょ...。

仕事終わりの化粧室でメイクをバッチリ直し、麻里はニヤリとほくそ笑む。こんなに可愛いフリーの女を、世の男たちが放っておくワケがない。

しかし、“結婚相手探し”が苦難の連続だという現実を、このときの麻里はまだ知らなかった。


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